TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

インタビュー 東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ   『サムソンとデリラ』 指揮者 準・メルクル氏に聴く (C)CH Fotodesign Christiane Höhne

準・メルクル Jun Märkl指揮者

ミュンヘン生まれ。ハノーファー音楽院で学んだ後、チェリビダッケ、マイヤーに師事。1986年にドイツ音楽評議会の指揮者コンクールで優勝。翌年、タングルウッド音楽祭に参加し、バーンスタイン、小澤征爾に学ぶ。これまでにリヨン管弦楽団の音楽監督、MDRライプツィヒ放送交響楽団等の首席指揮者を歴任。ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場等での活躍と同時に、クリーブランド管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団など世界的なオーケストラとの共演を重ねている。日本においても、97年にNHK交響楽団を指揮してデビュー以後、数々の公演で抜群の知名度を誇り、東京二期会では今までに『イドメネオ』『ダナエの愛』『ローエングリン』を手がけている。2021年シーズンから、ハーグ・レジデンティ管弦楽団の首席客演指揮者に就任。2012年フランス芸術文化勲章・シュヴァリエを受章。

東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
サン=サーンス 『サムソンとデリラ』

オペラ全3幕 日本語字幕付き原語(フランス語)上演 セミ・ステージ形式上演
指揮:ジェレミー・ローレル 合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
Bunkamuraオーチャードホール 2021年1月5日(火)19:00、6日(水)19:00

※本公演は新型コロナウイルス感染拡大の状況により2020年4月より延期されました。
また、公演日程の変更に伴い、当初出演を予定しておりました指揮者、準・メルクルはスケジュールの都合で出演できなくなりました。代わりまして本公演の指揮者にはジェレミー・ローレルが出演致します。
何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。
本記事は延期発表前の2019年12月に掲載いたしました。

—サン=サーンスの音楽にこそ、フランス文化の
最も美しく洗練された要素が凝縮されているのです

─ 東京二期会とは既に何度か仕事をされていますが、どのような印象をお持ちですか?

準・メルクル氏(以下M) 東京二期会の皆さんと仕事をすることは、私にとって何よりも喜びです。メンバー一人ひとりのレベルの高さはもちろんのこと、一人ひとりの情熱と良い作品を生みだすために貢献したいという意欲、そしてチームワークの良さが、最高の結果を生みだしていると思います。それらは、一つひとつの公演を通して観客の皆さんにも確かに伝わっていることでしょう。

─ 『サムソンとデリラ』の作曲家サン=サーンスについては、近年、交響曲全曲を録音されたそうですが(NAXOSから発売)、この作曲家に惹かれる理由をお聞かせください。

M 私はサン=サーンスの音楽をこよなく愛しています。それぞれの作品が醸しだすエレガントな様式は、彼の作曲家としての偉大さ、熟達ぶりを物語り、何とも品格に満ちています。軽やかで透明感のある構造や美しい旋律は、誰しもの心を打つのです。
 サン=サーンスは比較的長く生き、長い間作曲活動をしました。私の中では、19世紀から20世紀のはざまに生きた作曲家と理解しています。しかし、彼は時代の変遷とともに美的価値や音楽のスタイルが変わろうとも、決して自らの信念を変えることはありませんでした。それは、音楽的なスタイルのみならず、彼自身の生き方や人間性、そしてエレガンスという点にも言えることです。そして、彼こそが、後に続くドビュッシーやラベルなどの印象派のフランス人作曲家たちに大きな影響を与えたのです。サン=サーンスの音楽にこそ、フランス文化の最も美しく洗練された要素が凝縮されているのです。

東京二期会オペラ劇場『ダナエの愛』。2015年にメルクル氏の指揮で上演された舞台から。©三枝近志

2018年に上演された『ローエングリン』(メルクル氏指揮)の舞台より。©三枝近志

─ 『サムソンとデリラ』というオペラ作品について聴き所や魅力を教えてください。

M 『サムソンとデリラ』は、サン=サーンスのオペラの中でも最も知られた曲です。この作品には、私たちが最高のオペラ作品に期待するすべての要素が凝縮されています。力強いストーリー展開、大合唱とアンサンブルの応酬、美しい旋律、そして壮大なバレエシーン。中でも、最大の遺産は、音楽を通して、このドラマに欠かせないすべての要素が見事に描きだされているということです。例えば、当時の中東世界の雰囲気や習慣、そして宗教的な対立が生みだす矛盾した感情というものまでも、サン=サーンスは音楽を通して描きだすことに成功したのです。それら一つひとつの要素を紐解き、音として感じることができるのは何よりの喜びだと思います。そして、今回二期会の歌手の皆さん一人ひとりが必ずその想いを実現してくれることと確信しています。

─ 日本やドイツ以外では、どのような活動を展開していらっしゃるのでしょうか。

M ここ数年、世界中に客演しています。マレーシア、香港、台北、シドニー、メルボルン、ウェリントン、ソウル…など都市名を挙げればきりがないくらいです。どんな都市もそれぞれに多様性があり、それらとともに生みだされる文化的背景、政治的背景がそれぞれの都市の貌を創り上げてきたことを感じさせてくれます。年に数か月は定期的に米国とカナダの舞台に立ち、もちろんヨーロッパでもたくさん仕事をしていますよ。オペラ、シンフォニー、そしてレコーディングというようにバランスよくこなしています。

─ 音楽関係の他にも今、興味を持たれている事柄やトピックスはありますか?

M クラシック音楽が導いてくれるデスティネーションとは関係のない土地を旅することも大きな楽しみです。カンボジアのアンコールワット寺院は何度も訪れていますし、来年の夏はアフリカ横断の旅も計画しています。そのような場所を訪れながら、ライフスタイルや文化の違いを感じることで、どのように芸術や音楽が人と人をつなぐことができるのかをつねに考え、探り続けています。