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オペラを楽しむ

新シーズンを彩る注目の指揮者たち 世界のオペラシーン席巻する若手〝イケメン〟指揮者たちも続々登場

音楽ジャーナリスト 石戸谷結子

颯爽と指揮台に飛び乗り、オーケストラを自在に繰ってオペラに魂を吹き込む華麗な指揮者たち。いま世界のオペラ指揮界は群雄割拠、若く個性的な指揮者が続々と出現して、ユニークな活動を展開している。日本ではその活動を耳で確かめる機会が少ないのだが、東京二期会の2019-2020シーズンのラインナップと指揮者の顔ぶれを見て驚いた。いま欧米で話題の若手指揮者(しかも眉目秀麗なイケメンたち)が顔を揃えているのだ。同時にフランス・オペラ界の大巨匠ミシェル・プラッソンやメトロポリタン歌劇場での活躍も記憶に新しいセバスティアン・ヴァイグレ、日本指揮界のエース大植英次と、輝かしいマエストロの名が並ぶ。

まずは気鋭の若手から。2019年10月の『蝶々夫人』を指揮するのは、ご存じアンドレア・バッティストーニ。すでに日本のオペラ・ファンにはお馴染みで、東京二期会では初来日時の『ナブッコ』(2012)に続き『リゴレット』(2015)『イル・トロヴァトーレ』(2016)、今年の10月には『アイーダ』(共同制作)と全ての公演を成功に導いている。情熱的で切れのいい、ダイナミックな指揮に加えて歌ごころも充分。いまはイタリアだけでなく、ミュンヘンやベルリンなどでも大活躍だ。まさに今が旬の、イキのいいバッティストーニが、旋律美の際立つ『蝶々夫人』にどう挑むのか、乞うご期待!

アンドレア・バッティストーニ ©上野隆文

2019年2月公演の『金閣寺』を指揮するのはフランス人のマキシム・パスカル。1985年生まれなのでまだ32歳だが、すでにスカラ座をはじめパリ・オペラ座でも大活躍。2014年にザルツブルクのネスレ・ヤング・コンダクター・アワードを受賞して注目されている。大学在学中に現代音楽の演奏集団ル・バルコンを創設し、ユニークな活動を展開している。現代音楽だけでなく、マルメ歌劇場での『ペレアスとメリザンド』がDVD化されており、2017年3月にはパリ・オペラ座バレエと来日し、『ダフニスとクロエ』を指揮した。三島由紀夫の愛読者であり、まだ青年っぽさの残る魅力的なパスカルが創る『金閣寺』。おそらくこれまでにない、新鮮な音楽になるだろう。

マキシム・パスカル ©Guillaume de Sardes

©Meng Phu

もう一人は2020年2月に『椿姫』を指揮する、イタリア生まれのジャコモ・サグリパンティ。今年夏のロッシーニ・オペラ・フェスティバルで、フローレス主演の珍しいオペラ『リッチャルドとゾライーデ』を指揮。ベッリーニの『ザイーラ』、ロッシーニの『パルミラのアウレリアーノ』など、珍しいオペラを指揮した多くのDVDを出して、早耳のオペラ・ファンたちの話題を呼んでいる。すでにバイエルン州立歌劇場やパリ・オペラ座で活躍しており、今年の9月にはパリ・オペラ座で『椿姫』を指揮。今後はロイヤル・オペラやウィーン国立歌劇場へのデビューも決まっているという超上り坂にあるオペラ界注目の若手だ。

若手だけではなく、指揮界の大御所ミシェル・プラッソンも『ファウストの劫罰』(2010)、『ホフマン物語』(2014)に続き、マスネの『エロディアード』を指揮する。プラッソンは10月に85歳を迎えてなお、気力と意欲にあふれたフランス・オペラ界の巨匠。日本ではあまり馴染みのない『エロディアード』だが、流麗なメロディとドラマチックな物語が感動的で、フランスのエスプリを堪能させてくれる演奏になりそうだ。

ジャコモ・サグリパンティ

2019年6月の『サロメ』を指揮するのはこの4月から読売日本交響楽団の常任指揮者に就任する、セバスティアン・ヴァイグレ。2008年からフランクフルト歌劇場の音楽監督を務め、同歌劇場を高水準の人気歌劇場にランクアップさせて高い評価を受けている。2017年には東京二期会の『ばらの騎士』を指揮して成功を収めており、R・シュトラウスを得意にするだけに、今回もドイツ伝統の基礎の上にたった精鋭な指揮が話題になるだろう。

2019年11月に『天国と地獄』を指揮する大植英次は、2005年に日本人で初めてバイロイト音楽祭に登場し『トリスタンとイゾルデ』を指揮した。2003年から2012年まで大阪フィルの音楽監督を務め、斬新な解釈と精悍な指揮で人気が高い。東京二期会では『こうもり』を指揮しており、オッフェンバックの複雑で風刺に富んだエンターテイメント作品に、新風を吹き込むことは間違いないだろう。

大植英次