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オペラを楽しむ

モーツァルト『後宮からの逃走』キャストインタビュー

金山京介・山本耕平

  • 写真・佐藤久

金山京介

草食系だからモーツァルト作品の
キャラクターに親近感が持てます

NHK合唱コンクールなどの全国大会にも頻繁に出場し、その高い実力で知られる松江北高校の合唱部。テノールの金山京介は、そこで歌と出合う。当初はさして興味がなかったものの、コンクール出場での東京行きと、女子とのふれあいを求めて一生懸命通い続けたというのがなんとも微笑ましい。

金山はオペラ以外にもクロスオーバーな舞台に積極的に取り組んでいる。

「二期会の仲間4人で結成しているユニット『La Dill』では、ポピュラーなものから昭和歌謡までクロスオーバーなジャンルに取り組んでいます。親しみやすいナンバーを歌うと、観客のリアクションもすごく身近に感じられますね。それまでは、声のことを考えすぎたり、精神的にも過剰に意識しすぎたりして、舞台というものに構えて臨んでいたんです。でも、ユニットの活動で観客席と一体になる楽しさを知って、何か吹っ切れたというか、オペラにも気持ちを楽にして臨めるようになりました。一皮むけてニュートラルになれたという感じでしょうか」

その素顔は至って普通の30代。家で寛ぐのが一番の楽しみで、漫画とゲームとスーパー銭湯通いが気分転換だという。オペラ歌手なのに、食には全く興味がないという素っ気なさ。でも居酒屋通いは大好きという現代っ子らしさもまた魅力だ。

そんな今時の男子そのものの金山だが、モーツァルトのオペラのキャラクターに話が及ぶと、饒舌に語りだす。

「今までにも、さまざまな役を歌わせて頂いたのですが、とにかく共感できるので、入り込みやすいんです。モーツァルトのテノールのキャラクターはどれも“草食系”。『後宮からの逃走』のベルモンテも、女性を助けに行こうと勇みながら、従僕に“どうしよう、どうしよう”と泣きつく。そんなところが、この現代の日本で、モーツァルトのオペラが注目される理由だと思うんです」

モーツァルトのオペラを得意とするテノールの生の言葉には説得力がある。

「ちょっとのめり込みすぎて、客観性がなくなることもあるくらい。最近、一皮むけたら些細なことにも感動したりして、涙もろくなりまして…」

期待のテノールは目下、草食系的に心も音楽もさらに進化中のようだ。

金山京介(かなやま きょうすけ) テノール

島根県出身。国立音楽大学声楽科首席卒業。東京藝術大学大学院修了。二期会オペラ研修所(優秀賞)修了。これまでに『コジ・ファン・トゥッテ』フェランド、『秘密の結婚』パオリーノ、『ドン・ジョヴァンニ』ドン・オッターヴィオ等を演じ、東京二期会では2015年『魔笛』タミーノで出演。若手実力派男性オペラ歌手4名による声楽ユニット「La Dill」のメンバー。
二期会会員

山本耕平

王道をひた走るオペラ界のプリンスは、
業界で最もゲーマーな一人?

 誰もが認めるオペラ界の“王子”の素顔は、その甘いマスクと裏腹に、理知的でストイック。その明晰な思考回路が納得するまで、何事にものめりこむタイプだ。

19歳でオペラデビューして以来、山本耕平の生活はつねに多忙を極めた。持ち前の情熱と信念でハードルを高く保ち続け、エリート街道をひた走ってきた。

しかし、そんな硬派な山本の心を揺さぶるモノが現れた。留学先のイタリアで。

「今回の留学でマントヴァという小さな街に住むようになって、初めて“市井”の生活というものを意識するようになったんです。それまでは、食事も移動中にするくらいで、料理をすることもなかったですしね。イタリアの友人たちのゆったりとした日常の豊かさや、彼らが子供たちや家族のことを一番に考えているのを見て、イイなと思ったんです」

周囲の期待に100%以上に応えてきた完璧無比の王子の眼からウロコが落ちた。

「日常生活で起きるごく普通のことに感動や共感を覚えられなければ歌なんて歌えないですよね…。僕はお風呂で本を読むのも大好きなんですが、そんなことも楽しみながらやってみたり…、バーやカフェで喋って飲み明かしたり、人対人レベルの本当の付き合い方を始めて知ったというか…」

王子が愛してやまないものがもう一つある。それはゲーム。

「ゲームから“コツコツやれ”という教訓や忍耐を学びましたからね(笑)。僕にとって、遊び(ゲーム)と仕事(歌)、この二つはつねに置き換え可能なんです」

ゲームも歌も渾然一体? いや、そこは完璧主義者の王子。“遊びも仕事のように、仕事も遊びのように”ということだ。

「最近、幸運にもファイナルファンタジー7の“伝説”のプログラマーさんとお酒をご一緒させていただく機会がありまして…。彼らは少ない容量の中に、いかに魅力的な要素を詰め込むかをすごく考えて工夫しているんですよ。僕たちも同じことで、限られた尺やフォーマットの中でいかに多彩な声や音楽を聴かせるかですからね。モーツァルトなんて、特に古典的なスタイルの中で、その先にあるものをいかに聴き手に感じさせるかですよね」

王子の素顔は、実は“オタクなゲーマー”というのが正しいようだ。

山本耕平(やまもと こうへい) テノール

鳥取県出身。東京学芸大学教育学部音楽科クラリネット専修を経て東京藝術大学音楽学部声楽科首席卒業、同大学院首席修了。ミラノ・ヴェルディ音楽院修了。第39回イタリア声楽コンコルソ・ミラノ大賞、第45回日伊声楽コンコルソ第1位他受賞多数。五島記念文化賞オペラ新人賞によりマントヴァにて研鑽。東京二期会では『ドン・カルロ』題名役、『リゴレット』マントヴァ公爵を務める。
二期会会員