TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

「《リゴレット》ほど、世界的に有名で、メロドランマの入り口にふさわしい作品はないと思います」〜愛してやまないヴェルディの傑作に、若き天才が生命を吹き込む! 文◎加藤浩子

 2012年2月、東京二期会『ナブッコ』で日本に初めて登場し、絶賛の嵐を巻き起こしたアンドレア・バッティストーニ。1987年生まれ、当時25歳という若さも話題となったが、何よりその鮮烈で躍動感あふれる音楽に、オペラ初心者、通を問わず魅了されたことは記憶に新しい。「リハーサルで序曲を聴いたとき、あまりに凄くて、思わず身を乗り出しました」(関係者)というエピソードもうなずける。それほど、強烈なお目見えだった。
 そのバッティストーニが、再び二期会公演のピットに入る。演目はヴェルディの大傑作『リゴレット』。本人も、「何度も振っているし、ヴェルディの作品のなかで一番好き」だと明言している作品だ。彼の初の著書であるクラシック音楽の入門書『Non e musica per vecchi』(Rizzoli 2012)では、「オペラ」を取り上げた章で、入門にふさわしいオペラ5作の第1作目にあげ、こう紹介している。「これほど世界的に有名で、メロドランマの入り口にふさわしい作品はないと思う」(148ページ)。
 『ナブッコ』はヴェルディの出世作だが、『リゴレット』は彼の名前を世界的なものにした中期の傑作で、『ナブッコ』同様私生活で窮地に追い込まれていたヴェルディのパワーが炸裂した作品でもある。情熱とエネルギーにあふれると同時に音楽劇として計算され尽くしている点で、冷静と情熱をあわせもつバッティストーニの個性にぴったりのオペラだといえよう。
 「『リゴレット』にはとても輝かしい部分もあれば、非常に暗い部分もあります。何より、主人公のリゴレットのアンチヒーローとしての造型は、当時としては画期的なものでした。『リゴレット』では、恐ろしい怒りや迸る涙が、ダイレクトに伝わってくるのです。魅了されてやまないオペラなので、日本で指揮できることは本当に嬉しいです」(バッティストーニ、以下B)
 一方で、『リゴレット』というオペラは、知名度の割に人気が今ひとつという声もきく。音楽は素晴らしいけれど、物語が残酷すぎるというのだ。私事で恐縮だが、小学生のお嬢さんがいる筆者の知人は、お嬢さんが『リゴレット』の映像に夢中になっているのだが、どんなお話?ときかれても説明できないと悩んでいた。
 「たしかに今の時代では、ちょっと妙に感じられるストーリーかも知れません。だからといって、子供向きでないとは思わない。お伽話や神話にも、暴力や死はつきものです。人生の暗い面に触れることも教育のひとつでしょう。劇場はそれに触れる手段のひとつだし、同時に美しさもエネルギーもある場所です」(B)
 美しくエネルギッシュといえば、バッティストーニの指揮姿もまさにそれ。大振りでダイナミックだが、音楽とぴたりと合って自然なので、耳と同時に目も引き込まれてしまう。この7月、彼の故郷でもある北イタリアのヴェローナで開催される有名なオペラ音楽祭で、音楽祭のオープニング公演でもあった『仮面舞踏会』を指揮したのを聴いたが、巨大な会場というハンディのもと、いちだんと大振りで、時に飛び跳ねながら、劇的緊張感と歌心に溢れた音楽を創り上げ、満場の喝采を浴びていた。
 幼い頃から家族に連れられて音楽祭に通ったというバッティストーニは、会場ではいつもオペラグラスで「指揮者ばかり見ていた」(B)。「音楽をやるために生まれてきた」という確信も揺るぎない。彼の音楽作りの大きな特徴に「揺るぎのなさ」があると思うが、「自分がそこで果たす役割に確信を持っていなければならない」と本人も言う。
 『ナブッコ』以来、日本ではちょっとした「バッティストーニ・ブーム」が起きている。『ナブッコ』で共演した東京フィルの定期に招かれ、ライブ録音したレスピーギの《ローマ三部作》、マーラーの《交響曲第一番》がいずれもCD化。各媒体で絶賛されている。批評家やジャーナリストにとどまらず、CD店のスタッフ(前述の2枚のCDは「本屋大賞」ならぬ「クラシックCDアワード」の第2位と第3位を占めた)や、共演した演奏家も賛辞を惜しまない。しかも東フィルとの2度目の共演は、公演をキャンセルした指揮者のピンチヒッターで、初めて振る作品ばかりだったのに、曲目変更なしで見事な演奏を聴かせ たのだから驚く。バッティストーニは、作品の輪郭をすばやくつかみ取り、本質を把握し、想像力で彩り、それを共演者、そして聴衆に、自然にそして的確に伝える才能に恵まれているのだ。
 再来年は、『イル・トロヴァトーレ』で3たび二期会に登場の予定。こちらも、ベルリン・ドイツ・オペラで指揮するなど手中にしている作品だ。世界の熱い視線を浴びるオペラ界、そして音楽界の超新星の本領発揮の演目を日本で楽しめるとは、何という幸運だろうか。

Andrea Battistoni

(アンドレア・バッティストーニ)

1987年ヴェローナ生まれ。7歳よりチェロを学び、後に作曲・指揮を学んだ。若くして、バーゼル歌劇場、トリエステ・ヴェルディ歌劇場、ナポリ・サンカルロ歌劇場、ヴェローナ・フィラルモニコ劇場、ヴェネツィア・フェニーチェ歌劇場等で指揮。サンクト・ペテルブルク交響楽団、フィレンツェ五月祭管弦楽団等とも共演、2011年パルマ歌劇場首席客演指揮者に就任。2012年ミラノ・スカラ座にて『フィガロの結婚』でデビュー、2013年ベルリン・ドイツ・オペラ『ナブッコ』も大成功を収めた。現在はジェノヴァのカルロ・フェリーチェ歌劇場首席客演指揮者。同管弦楽団との共演によるCD「イタリアオペラ名曲集」(仮題)は、日本でも間もなく発売予定。現在、イタリアをはじめ、欧州で最も人気のある指揮者の一人。


→オペラを楽しむTOP →2015年2月公演『リゴレット』公演詳細