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オペラを楽しむ

「レシピ・アン」収録の舞台裏に迫る
オペラ歌手がテレビに出演する意味

BSフジ:レシピ・アン
番組ゼネラルプロデューサー
福水 託


 毎週水曜日23時からの30分間、BSフジで〈レシピ・アン〉という番組が放映されているのをご存知だろうか。
 2012年の10月に放映がスタートしたこの番組の大きな特徴は、東京二期会所属のオペラ歌手3名が毎回出演していることだ。
 それもゲストとしてではなく、番組の進行役MCとしてレギュラー出演を果たしている。
 3名のMCが毎回ゲストをお招きして、歌と料理でおもてなしのレシピを考え実践する新感覚のトーク番組という趣向だ。
 MCを務める3人は、ソプラノの幸田浩子さん、バリトンの北川辰彦さん、バス・バリトンのジョン・ハオさんという陣容だ。
 私はこの番組全体の企画・構成から全体のプロデューサーまで務めており、この3名のキャスティングも担当させて頂いた。「舞台人であるオペラ歌手が、なぜテレビ番組のMCをレギュラーで?」
 番組がスタートする前から今に至るまで、東京二期会の内部だけでなく、オペラに馴染みのない一般の方々からも同様のことを問われてきたが、私の答えは常にいつも一緒だ。
 オペラは総合芸術として西洋文化の最高峰に目されている。最高峰の文化の表現者であるオペラ歌手こそ、より多くの人々に知られるべきであり、また多くの人々が知るべき高い価値を持っていると思っているからだ。
 更に言えば、今という時代が求めている人物像をオペラ歌手に見るからである。
 時代が求める人物像とは如何なるものか、それはオペラ歌手ならば当たり前ともいえる「自分の人生全てを、歌という1つの事に懸ける真摯な生き方」を実践している人である。

 今の日本は経済的に恵まれ、物質面での充足感はかなりの水準まで高まってきている。そして多くの日本人は、物質的充足感の次の段階に進もうとしている。
 物欲が満たされた次にくるもの、それは心や精神の充足である。
 もちろん、オペラ文化そのものが精神の充足に大きな価値を提供するとも言えるが、私が注目するのは、オペラ歌手の真摯な生き方にこそ、多くの現代人が共感を覚えるのではなかろうかという点である。
 オペラ歌手は、新作オペラのたびに長時間の演出を身体に叩きこみ、新曲をそれぞれの必要とされる言語で暗譜するような、常に勉強し努力する真摯な日々を送っている。
 様々な面で成熟期を迎えた日本人は、そうしたヒタムキで真摯な人生に、畏敬の念を持つ人が増えているように思うのだ。
 トーク番組のMCはアドリブの部分も多く、その人自身の性格や在り方が自然と滲み出てくるが、今回はMCのキャラクターを視聴者に強く印象づけるために、ゲストをお迎えするまでの裏側、つまり料理の準備や歌の練習にも、真摯に真面目に取り組んでいるシーンを番組に入れ込んでいる。
 これが今までのトーク番組とは違う部分であり、またオペラ歌手の誠実な人柄を視聴者に感じてもらうために工夫しているポイントだ。
 今回の番組のMCを選考する際に重視したのは、まず「愛されキャラ」であること、「天然系」であること、「誠を持っている人」で、視聴者から近しい共感を得られる人柄を重視した。
 今回の3人はそれぞれに違った魅力を持っているが、しかし視聴者の共感を「素のまま」で得られるという事に関しては共通していると考えている。
 番組のプロデューサーである私にしてみれば、考えたり仕込んだりしていることは他にも山のようにあるが、まずは多くの方々に番組を見て頂き、それぞれに何かを感じて頂きたいと思う。
 日本におけるオペラ文化を普及させるための一歩として、オペラ歌手の魅力を多くの人に知ってもらえたらと考えている。


「レシピ・アン」 BSフジ 毎週水曜 23:00~23:30
世界で活躍するオペラ歌手、幸田浩子、北川辰彦、ジョン・ハオの3人が様々な業界のゲストを迎え、音楽と料理でおもてなしする音楽&トーク番組。
食べながら、飲みながらホームパーティーのような雰囲気で語り合う。時には3人とゲストが音楽でコラボ!おもてなしの準備をしていく過程で、ゲストの意外な素顔も… !?



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