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オペラを楽しむ

「オペラの楽しみ」 室田尚子

第16回「オペラをもっと楽しむために・その3」


 「オペラをもっと楽しむために」、前回までは事前の「予習」、そして舞台を観終わったあとの「復習」についてご紹介してきました。今回は、実際にオペラを観に来た当日、劇場で「オペラをもっと楽しむために」できることを考えてみましょう。この連載の第2回で、「オペラ劇場の歩き方」と題し、オペラ劇場での振る舞い方について簡単にレクチャーをしましたが、今回はその発展編。舞台のみかた、そして音楽以外の要素について、少し目を向けてみようと思います。


1.舞台のどこをどうやってみるか

 舞台をみる際の最大の課題に、「オペラグラスを使うかどうか」ということがあります。これは専門家の間でも意見の分かれるところ。オペラグラスを使うと「歌手の表情や衣装の柄など細かいところがみられる」という利点があるかわり、「舞台の全体像がみえない」という決定的な欠点も生じてしまいます。最近は演出にこだわった舞台も多く、例えば来年2月に予定されている『サロメ』の演出を手がけるペーター・コンヴィチュニーなどは、舞台のどんなはじっこにいる人にも細かい演技をつける演出家で、そういう舞台の時に全体像がみえないのは作品そのものをみていない、ということにもなりかねません。一方、お気に入りの歌手の姿を「少しでもアップでみたい」という乙女心(?)も理解できます。ここは自分が「その舞台に何を求めているか」ということをはっきりとさせておく必要があるでしょう。新演出や初めてみる作品の時は、やはり舞台全体を俯瞰的にみる。定番のレパートリーならオペラグラスで細部をじっくり。このようにケースによって(あるいはひとつの作品でも場面によって)「みかたをかえてみる」というのも手です。

2010年7月『ファウストの劫罰』第3部
演出:大島早紀子

2008年9月
『エフゲニー・オネーギン』
演出:ペーター・コンヴィチュニー




2.ききどころ、みどころはどこか

 歌手の聴かせどころである名アリア、あるいはアンサンブルが楽しめる重唱など、事前に「ききどころ」をインプットしていくと舞台はもっと楽しくなります。初めてみる作品ならば、プログラムにそうした情報が載っていますから、ぜひ開演前にチェックしておいてください。さきほどの演出にも関連しますが、最近では「装置」や「衣裳」「照明」が大きな役割を果たしている舞台がほとんど。「クラシック音楽」と堅苦しく考えず、一種のエンタテインメントとしてみた時には、こうした「歌以外の要素」もオペラの大きな魅力のひとつ。なにしろオペラは「総合芸術」=音楽、文学、美術などが一体となったパフォーマンスなのですから。そして、素晴らしい舞台に感動したら、ぜひ「装置」や「衣裳」などを誰が担当したのかもチェックしてみてください。次に別の舞台をみた時に同じ装置家の名前があれば、「またあんな舞台なのかしら」と想像もふくらみます。
 そうそう、もうひとつ。さる7月に行なわれた『ファウストの劫罰』では素晴らしいダンサーたちが歌手に負けない存在感を示していました。この11月の『メリー・ウィドー』は、フレンチ・カンカン(フリフリのスカートをまくりながら踊る)が有名なオペラです。「ダンス」も、作品によってはオペラに欠かせない要素のひとつ。ダンサーたちの鍛え上げられた体やその動きが音楽とどんな風に融合するのかも注目です。

2005年2月『メリー・ウィドー』
演出:山田和也




2010年7月『ファウストの劫罰』第1部 演出:大島早紀子


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