TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

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オペラを楽しむ

私とオペラ
夏まゆみ

とても敷居が高くチケット代も高額、それでも「勉強!」と勇気を振り絞って劇場に足を運んでみるけれど、周りを見渡せば着飾った高貴な人ばかり見えてくる。ヤケに自分がみすぼらしく思えて鑑賞するにも集中できず、英語以外の歌の意味もわからず、何オクターブも出るその声量を自慢しているだけのように見えたり、それでもフルオーケストラで奏でられるクラシック音楽の音色の心地良さにだけは反応し、ついうっかりウトウトと…(オペラに携わるすべての皆様、本当にゴメンなさい)。

これが18歳のイギリス留学の際のオペラとの出会い。それ以来、中々次なる一歩が踏み出せずついつい足が遠のいてしまいがち…それがオペラ。何を隠そう、恥ずかしながらこれ、私のことです。

こんにちは、夏まゆみです。これまでこのコラムに登場された方々とは違い、あまりにオペラの知識と経験の少ない私は、これ程恐れ多い大役を引き受けて良いものかずいぶん悩みましたが、もっともオペラが苦手だった私がオペラ大好きになったきっかけをお話ししようと思い、謹んでお引き受け致しました。

それはある女性オペラ歌手の方との番組共演がきっかけでした。なんとその番組内で私はモーツァルトの『魔笛』を振り付けすることに。この私が!? オペラのワンシーンを!? これまで30年間、いくつものコンサートやミュージカルの演出・振付を手掛けて来たけれど…しかも番組内では即興で!?

覚悟を決めて、収録のカメラが回っている状況下、振り付けを進めていきます。と、その時目の前で繰り広げられる、練習段階から、その声、表現力、全ての才能を惜しむことなく出して臨むというか挑むその姿に圧倒されました。大御所歌手でも大舞台女優でもこれまで経験してきた何物でもない全く違う世界に引き込まれました。何小節もの長い間声を発しているその間にさまざまな感情が見事にのっているんです。歌でも台詞でもないそのただただ伸ばし続ける声に感情の移り変わりが見事に表現されているんです。衝撃でした。

それ以来ファンとなった私はオペラの魅力にぐいぐいと引き込まれていくことになります。あらためてあの重厚な舞台美術・装置、衣装、出演者それぞれの大きな存在感、凛として時に情熱的なマエストロの存在、客席と一体化される空間。知れば知る程オペラは深く、歴史あるからこそその時代の思想、背景を垣間見ることもできる。

私がダンスの原点がアフリカにあると感じたように、舞台芸術の原点が、歌い手の基本がオペラにあるとさえ感じました。

情報過多の国際化した現代社会において、伝統芸術から文化と歴史に触れることで、心豊かに、それによって自分、そしてその自分を取り巻く社会を知り、自分を確立させるきっかけの一つとなる可能性をも秘めたもの、それが私の感じるオペラです。

夏まゆみ(なつ まゆみ)

ダンスプロデューサー。1993年日本で初めてソロダンサーとしてN.Y.アポロシアターに出演、1998年長野冬季オリンピック閉会式での振り付けを考案指揮。NHK紅白歌合戦のステージングは20年間歴任。吉本印天然素材、ジャニーズ、モーニング娘。、宝塚歌劇団、AKB48、マッスルミュージカル等手がけたアーティストは300組以上。現在、様々なメディアで活躍するコリオグラフィの第一人者。著書に『ダンスのための準備運動』『エースと呼ばれる人は何をしているのか』等。2017年6月『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』を上梓。 講演依頼も多数。
http://www.natsufun-keyhearts.co.jp