TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

私とオペラ
眞野あずさ

 25歳の時、「アメリカに於ける日本文化」のテレビ取材の仕事でノックスビルで初めて歌舞伎公演を観ました。演目は「隅田川」。しかし、感動で涙するも馴染めませんでした。
 その後、雑誌の対談相手の歌舞伎の役者さんに「老いた狂女が我が子を失った悲しみが伝わり涙が出ました。」と初歌舞伎の感想を伝えると、「老いてはいません。若い女なんですよ。」と優しくご指摘を頂きました。70歳を越えた名優が演じられていたのを、老女と思い込んだ無知な私の大失態でした。そんな私も30歳を過ぎてから歌舞伎適齢期を迎え、数多くの舞台を楽しんできました。
 初オペラは32歳。チケットを頂き、国立代々木競技場に『カルメン』を観に行きました。プラスチックの椅子は固く、遠くに見る舞台から心に響く歌声が聞こえて来るも、歌の内容はさっぱり分からず、敢え無く一時間で退場。頂いた数万円するチケットを無駄にする申し訳なさから、帰り際に買ったパンフレットを読み込み、オペラには予習が必要だったと悔やんだのでした。
 そんな苦い経験から足が遠のき…、しかし、オペラ適齢期はやって来ました。2005年に「オペラの『マクベス』を観に行かない?卒論のテーマだったから興味あるでしょう?」と親友に誘われたのがきっかけでした。勉強嫌いの私が唯一誇れる奇跡の傑作(?)、卒論「『マクベス』における超自然世界の役割」。台詞はその殆どが記憶に残っていました。挑むような気持ちで劇場に向かった私でしたが、壮大な『マクベス』の世界に魂を奪われ、美しい歌声に込められた心の機微に心を揺さぶられ、オペラの魅力に引き込まれたのでした。
 才能と技術を合わせ持った歌い手が、オーケストラの演奏をバックに名曲を歌い上げる。ドラマの脚本の台詞を伝えるのでさえ覚束無いのに、声の大小、高低、抑揚、間など、制約を受ける歌での表現の難しさは尋常では無いと思うのです。
 絵画、クラシック、歌舞伎、バレエと、芸術を受け入れるには、それぞれに人生の適齢期がありました。その過程を経たからこそ「総合芸術」とされるオペラを楽しめる今があります。まだまだ初心者ですが、ガラコンサート、映画館、DVDでもオペラを鑑賞しています。ザルツブルク音楽祭『フィガロの結婚』、プロジェクションマッピングを使った英国ロイヤルオペラの『ドン・ジョヴァンニ』の新しい演出も印象的でした。

眞野あずさ(まの あずさ)

女優。東京都出身。大学在学中よりCMモデルを務め、卒業後にTBS「風の鳴る国境」で、女優としてデビュー。人気シリーズドラマ、テレビ朝日「検事・朝日奈耀子」TBS「上条麗子の事件推理」をはじめ、多くのドラマ、映画、舞台で活躍。