TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

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オペラを楽しむ

私とオペラ
前田美波里

 2008年にミュージカル「アプローズ」で、バリトンの宮本益光さんと共演しました。宮本さんも初めてのミュージカル出演ということでしたが、私も、初めてオペラ歌手の方と舞台をご一緒したんです。何より驚いたのは、声のパワー。ミュージカルですからもちろんマイクを使うのですが、音響さんが「音量調節がたいへん」というくらい、ほかの出演者とは格段に声の響き方が違うんです。
 ところが、そのすごい声の持ち主が、いざ幕が上がってみると「こんなに長い期間、毎日歌ったことはない」とおっしゃる。オペラの舞台はせいぜい続けて2日間。3日目にはお休みが入るのだそうで、私は「これは、かなり違う世界だなあ」と思いました。
 私自身がオペラの舞台に出演したこともあります。二期会の『三文オペラ』で、海賊ジェニーを鳳蘭さんとのダブルキャストで歌いました。この時は、「キーが高いんですが」と言ったら「そのキーを出すんです」と言われてビックリしました(笑)(編集部注:ミュージカルの場合、歌手に合わせてキー=調性を変更することもあるが、オペラは原調のまま歌う。)
 ミュージカルとオペラのいちばんの違いは、表現の方法だと思います。ミュージカルはマイクを使いますがオペラは生声。当然、発声の方法も変わります。最近はだいぶ変わってきたようですが、昔のオペラではアリアになると正面を向いて歌っていました。「アプローズ」の時、宮本さんに、「マイクが入っているから芝居はしたままで、もっと自由に歌ってほしい」とお願いしたくらいです。後に、新国立劇場で『鹿鳴館』の舞台を拝見したのですが、宮本さんはミュージカルで経験されたそうした自由なスタイルを積極的にオペラに活かしていらっしゃる、と感じました。
 もちろん、オペラにはオペラの、ミュージカルにはミュージカルの良さがあって、それぞれどちらが良い、というようなものではありませんね。でも、私がいちばん不思議に思うのは、なぜ日本語で演じないのだろう、ということです。例えば、海外の歌劇場の公演が原語上演なのはわかりますが、日本で日本人が演じるのに、どうして原語にこだわるのでしょうか。“言葉がわからない"ということが、一般の方々がオペラを敬遠される原因のひとつになっているのではないか、と思うのです。
 せっかく素晴らしいお声を持っていらっしゃるのですから、ぜひ、わかる言葉で聴かせてほしい。例えば、宮本さんがなさっている日本語訳詞上演の試みは、オペラファンが増えるためのトライアルとして素晴らしいと思います。こうした活動がもっともっと広がって、日本のオペラ界がさらに盛り上がっていくことを祈って、応援しています。(談)

前田美波里(まえだ びばり)

俳優。1948年神奈川県生まれ。64年に15歳で舞台デビュー。
66年に資生堂のイメージモデルとして脚光を浴びる。その後、劇団四季、東宝などの舞台を中心に映画、ドラマ、CM 等で活躍中。
主演舞台「アプローズ」で第30回松尾芸能賞優秀賞を受賞。
7月11日より舞台「ペールギュント」(KAAT 神奈川芸術劇場ほか)、
7月12日「シャンソンの祭典 パリ祭」(NHKホール)出演予定。