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オペラを楽しむ

私とオペラ
笑福亭笑瓶

「超人たちの世界」

 2008年4月から2012年3月まで、ソプラノ歌手の幸田浩子さんと一緒に、NHK–FM「気ままにクラシック」という番組のパーソナリティをさせてもらいました。クラシックには門外漢の僕に白羽の矢が立ったのは、クラシックをまったく知らない人間が進行役をすることで、高いと思われがちなクラシック音楽のハードルを下げたい、という局側の考えがあったようです。おかげさまで4年間も番組が続いたのは、そういう僕の「知らなさ加減」が、クラシック・ファンではなかったお客様にも気に入ってもらえたからなのかもしれません。
 当時も今もですが、幸田さんは「日本で5本の指に入るソプラノ歌手」といわれていました。僕はとてもあまのじゃくな人間なので、そういう素晴らしい才能の持ち主に対して「オペラ歌手なんぼのもんや」という気持ちでぶつかっていった。実は幸田さんとは、大阪出身という共通のバックボーンがあったので、自然に幸田さんの天然ボケに僕がつっこむ、というスタイルが出来上がりました。リスナーの皆さんには、そのあたりを楽しんでいただけたのではないかな、と思います。
 番組ではたくさんの曲を聴きましたし、また地方の公開録音で色々な演奏家の方をお招きして生演奏を聴かせていただく機会もありました。そんな時僕が注目したのは、演奏家の皆さんの「ドヤ顔」なんですね。演奏の完成度が高いのは僕にもわかるし、彼らがそこに到達するまでには、持って生まれた才能はもちろんのこと、どれだけの努力を重ねたのかと思うと、そのドヤ顔が素敵だなあとは思うんですけど。でも、僕はもともと「怠け者の芸人」なんで、そういうドヤ顔を見ると、どっかいじってやりたくなる(笑)。あまりに完璧なものより、不完全なものの方が好きなのかもしれないな。
 でも、オペラというのは本当にすごい世界観ですよね。僕にとっては「超人の世界」です。お芝居、物語、音楽、演出、そして歌手の皆さんの尋常じゃない歌唱力…。同じ舞台人として感じるのは、舞台に立っているすべての歌手がみんな完璧というところ。もともとオペラって西洋のものでしょ。体格からしてハンデがある日本人が、あそこまで完璧に演じるためにどんな努力をしてきたのか。フツウの人なら、成長の過程で「あれもしたい、これもしたい」って寄り道をするところを、オペラ歌手は多分物心ついたときからずっと音楽一筋できたんですよね。そういう一途さには、驚きと、一種の怖ささえ感じてしまいます。超人の世界であるオペラは舞台上のエネルギーがすごいから、観るときはこちらも相当の覚悟で臨みたいですよね。「かかってこんかい!」っていうくらいの(笑)。

笑福亭笑瓶(しょうふくてい しょうへい)

タレント
1956年生まれ。大阪府出身。
現在、『噂の!東京マガジン』(TBS系)、『大阪ほんわかテレビ』(YTV系)にレギュラー出演するほか、
文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ!』(月1回ゲスト)、CM「コンタック」(Mr.コンタックの声担当)、
インフォマーシャル「ペプチドエース」など、様々な番組で活躍中。



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