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オペラを楽しむ

私とオペラ
住吉美紀

「オペラは希望を秘めている。」

 私のオペラとの出会いは、物語の中だ。高校生のとき見た映画「プリティウーマン」。デキる実業家(リチャード・ギア)がコールガール(ジュリア・ロバーツ)を初めてのオペラ体験にいざなう。生き延びるために心を殻に閉じ込めていた彼女は、美しいドレスを身にまとってレディとして扱われ、オペラの世界に触れた瞬間、心の殻が綻び、涙するのだ。人生の転機の涙。
 さらに、私が人生のバイブルと位置付けている海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」でも、恋模様の重要な舞台としてオペラが登場する。大恋愛の末別れた元恋人ビッグが、その後すぐに若い女性と結婚したことに傷ついていた主人公キャリー。そのキャリーがオペラ鑑賞中、向かいのボックス席にいるビッグ夫妻をオペラグラス越しに発見してしまうのだ。しかも、ビッグもオペラグラスでこちらを見ているではないか。なんという偶然。傷が少し癒え始めていたキャリーだが、この運命的展開に激しく動揺し、心のかさぶたは無残にも剥がれ落ちる。たまらず劇場の階段を駆け下りる中、アリアの旋律のように生々しい悲しさが彼女を襲う。
 炎のような熱い煌めきと、氷のように鋭い切なさ。両極端の人間模様をドラマチックに包み込むような包容力を、オペラに感じていた。だからこそずっと、お洒落をしてオペラハウスに足を運び、情熱的な体験をすることに憧れていた。素敵な男性のエスコートがあれば、尚良し。
 しかし、私にリアルなオペラとの出会いを運んでくれたのは、女性だった。しかも、美しく、才能溢れる人。大の仲良しのソプラノ歌手、幸田浩子さんだ。NHKの海外中継番組で共演して以来の彼女との友情も、もう二桁の年数となる。その間観てきた彼女のステージで印象深いのは、やはりオペラ。最近で言うと『ホフマン物語』。音楽の美しさはもちろんのこと、演出や衣装の華やかさは想像以上!完成された舞台セットはまるごと現代アート作品のようで、その優美な世界にずっと浸っていたいと思うほど心躍った。
 また、今年1月は沼尻竜典さん作曲のオペラ『竹取物語』の世界初演があった。馴染みやすく心打つメロディ、浩子さん演じるかぐや姫の可憐で哀しい歌、さらに、和のセンス抜群の、引き算の美の背景画……すべてが融合したとき、心揺さぶられた。頭に熱がこもって呆然とするほどの感動に、涙が止まらない。切なさのあまりの高揚。オペラだからこその、高揚。
 オペラの魅力は、人生のどんなドラマも夢のように美しく描いてしまうところではなかろうか。悲喜こもごも避けられないのであれば、手の届かないほどの麗しさの中でそれを味わってしまおう、と。そして、届かなくても手を伸ばしたくなる美しさが在ることを、人は「希望」と呼ぶのかもしれない。

住吉 美紀(すみよし みき)

フリーアナウンサー・エッセイスト
1973年生まれ。国際基督教大学卒業。1996年 アナウンサーとしてNHK入局。
「プロフェッショナル 仕事の流儀」や海外中継番組などを担当。2011年4月よりフリーに。
現在はTOKYO FM 「Blue Ocean」(月~金 9:00~)など、幅広く活躍。
著書に『自分へのごほうび』。 ヨガの指導者資格を持つ。



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