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オペラを楽しむ

私とオペラ
高嶋ちさ子

 日本の大学を卒業し、アメリカのイェール大学院に留学して、授業でオペラをやることになったのがオペラとの最初の出会いでした。
 当時は英語があまりわからなくて、授業で舞台に行こうとしたら、「オケピットに行け!」って言われて、生まれて初めて穴グラのようなオケピに行きました。
 そこで譜面台の上に、譜面が置いてあって“Magic Flute”って書いてあったんです。フルートの超絶技巧の曲なのかな?って思って、何でオケピで弾くのかな?って思ってたら、音を出したら、なんとそれはモーツァルトの『魔笛(まてき)』だったんです。英語でも魔笛を“MagicFlute”っていうんだ、って感動しながら弾いたのを覚えています(笑)。今思えば、本当に無知ですよね。
 その時私はファースト・ヴァイオリンだったので、弾きながらですけどオペラを間近で観ました。
 魔笛には「夜の女王のアリア」というコロラトゥーラという超絶技巧で歌うアリアがあるのですが、それを声楽家の学生が見事に歌っていて、学生なのにすごい人がいるんだなって思ったのを今でも覚えています。
 私が通っていたイェールは、ブッシュやクリントンといった政治家の方々も多く卒業している一方で、演劇やオペラなどにも力を入れていて、トム・ハンクスやジョディ・フォスターがいたり、美術館やホールの設備も充実していて、そこから私はオペラにはまり、ニューヨークにオペラを観に行ったり、声楽家の学生とも交流をするようになりました。
 声楽家の学生達は普段、特に練習している様子もなかったので「普段は何してるの?」って聞いたら「ただ時が経つのを待っている」って笑いながら言うんです。私はそれを聞いて全く理解出来なかったんですけど、彼らが言うには“30歳を迎えるまで声が安定しない”っていう理由があるみたいなんです。
 その間にイタリア語やドイツ語を勉強すると。私たち弦楽器奏者は若ければ若い方が良いというのとは正反対で、彼らは体自身が楽器である、同じ音楽家でも考え方が全く違う側面を知る事が出来ました。
 そして、オペラに関してこんな面白いエピソードも。留学中に、母が日本から来てニューヨークへ『蝶々夫人』を観に行った時に、母が時差ぼけのため、アクビをして涙を目に浮かべていたら、他の外国の方が、「やっぱり、日本人には泣けるオペラなんだね」って言っているのを聞いた時、「アクビで泣いてるんだけどね」って思ったのを覚えています(笑)
1991年~1995年頃までメトロポリタンオペラに通っていたので数々の良い舞台を観ました。
 帰国後は軽部さんという相棒を得て、日本でもよく一緒に観に行きましたね。
 元々、私はコミカルな作品もしくは叙情的なイタリアオペラが好きなんです。
 ただ、ワーグナーに関しては“序曲”だけが大好きなんです。あの壮大で神々しいまでの音楽には魅力を感じますが、2時間以上じっとしていられない性格なので、とても最後まで見る自信がありません。序曲で満足です。
 つまり、私はまだオペラ全てを理解出来ていない“ビギナー”なんです。けど、序曲聞きとしてはエキスパート。弾くのはもっと好きです。皆さんも、ぜひオペラの楽しみ方を見つけてみてはいかがですか?

高嶋 ちさ子(たかしま ちさこ)

ヴァイオリニスト。桐朋学園大学を経て、イェール大学音楽学部大学院修士課程アーティスト・ディプロマコースを修了。
常にお客様の目線で考えられたコンサートを企画し、年間100本近いコンサートを開催。
現在、演奏活動を中心としながら、コンサートプロデュース、テレビ・ラジオ番組の出演、執筆活動など幅広く活躍中。
9月にアルバム「ロマンティック・メロディーズ〜マイ・ベスト・クラシックス」をリリース。
高嶋ちさ子official web site http://www.j-two.co.jp/chisako/



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