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オペラを楽しむ

私とオペラ
高木 美保

 まだ肌寒さが残っている頃に引っ越しをして、ようやく荷物が収まるべきところに収まったら、もう汗ばむ季節になっていた。
 引っ越し……。こういうとき夫というものはほとんど戦力にならない。肝心な日に風邪をひき病院行き。動かないわりに口だけは出す。一日も早く片づけを済ませたい時に、友人とゴルフの約束が入っていていそいそ出かけて行く。おいおい昨日までの風邪はどうした。
 そんなこんなで部屋がゴチャゴチャしたまま過ごすストレスは溜まる一方。気晴らしに既婚の女友達とパンケーキを食べに行った際その話をしたら、うちも~、うちもそうよ~とうなずきまくりだった。
「このあいだ、アメリカの脳生理学者が講演してた。男脳って一度に一つのことしかできないんだって。だからテレビ観ながら妻の話は聞けないの」
「どうりで予定を覚えていないわけだわ」
「しかもこの話を旦那にしたら、じゃあ僕のせいじゃなくて、男はみーんなそうなんだねって開き直ったのよ~」
 アルフレード……。一瞬、パンケーキの上に彼が足を組んで座っているのが見えた。
 オペラファンなら誰もが知る『椿姫』の最愛の彼は、私が初めて出会ったオペラの中のヒーローだ。が、申し訳ないがあまり印象はパッとしない。どうしてあれほど愛してくれた女性の過ちを許さないどころか、開き直って意地悪までしたのか。ちょっと多角的に物事を考えればヴィオレッタの真意がわかったはずなのに。真っすぐすぎる。お坊ちゃん。あーじれったい!そしてそんなアルフレードのイメージと、開き直った友達の旦那さんのイメージがダブるのだ。まったく悪気なく、妻がはぁ?と呆れることをするところとか。そういえば、もう一人の女友達の旦那さんも空気を読まないギャグを連発してよく妻に窘められている。別の旦那さんは大きな子供と呼ばれていた。ほんと男はみんな困ったちゃん。なのに、いつも妻達は笑顔で不満を披露した後、夫達の好物を土産に買って帰るのだった。
 男女の幸せの形はさまざまだろうが、いつの時代も男がちょっとアルフレードな方が女は幸せを実感できるらしい。だからデュマの戯曲はオペラへと生まれ変わり愛され続けているのだろう。ちょっと乱暴な言い方を許して頂ければ、オペラ『椿姫』とは、大きな声で世間を憚らず♪男はみんな困ったちゃ~ん。でもそこがかわいいの~♪と歌っているのだ。聞いてますか?うちの旦那さん。

撮影/鍋島徳恭
高木 美保(たかぎ みほ) タレント
1962年7月29日生まれ。(出身地 東京都葛飾区)
1984年、映画『Wの悲劇』でデビュー後、ドラマ『華の嵐』の主役をはじめ、NHK大河ドラマ等に出演。またバラエティー番組にも挑戦し、お茶の間の人気者となる。
1998年11月、自然と共にある生活を求めて、栃木県那須高原に住まいを移し、農業にも取り組む。現在は芸能活動のみならず、講演や執筆業など幅広い活動を展開。著書多数あり。テレビ朝日「モーニングバード!」レギュラー(木曜日)のコメンテーターとして出演中。


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