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オペラを楽しむ

私とオペラ
辰巳琢郎

 この6月、初めて大劇場の座長を体験しました。名古屋の御園座特別企画『恋文〜星野哲郎物語』。去年11月に亡くなられた「最初で最後の作詞家」星野先生と、内助の功の典型のような奥様の、言わば夫婦ものです。
 そのおかげで、これまで無縁だった演歌にどっぷり。今でも移動中の車の中で、ずっと流しています。良いんですねぇ〜これが。特に星野先生の歌詞は、どれも素晴らしい。胸にグサグサ突き刺さります。そういう歳になった、ということなのかもしれませんが……。
 基本的に演歌は、歌詞ありきです。そしてその歌詞を上手く伝える為、その世界観をどのようにすれば表現出来るかに腐心して、作曲家が曲を付ける。メロディーが先に出来ていて、それに歌詞を当て込む為、日本語として歪なものになりがちな昨今のポップス系の楽曲とは、根本から違います。
 何かに似ていると思いませんか? そう、オペラです。まず原作なり、ストーリーがなければなりません。そしてリブレットを作り、そのあとで初めて作曲に入る。もっとも、作曲家があれこれアイデアを出し、主導権を握っていることがほとんどのようですが。とにかく内容を伝えることが第一義。その内容も、ワーグナーなどは別にして、至って下世話で大衆的。ヴェルディもプッチーニも、そのアリアをよーく聴いてみると、まるで演歌そのものなので驚いてしまいます。
 違いは、そのファン層です。演歌は庶民のもの、それもある程度お年を召したオジサマ、オバサマが中心。一方オペラはセレブのもの。そんな風に一般的には捉えられているのではないでしょうか。
 とにかく、オペラの入場料は高すぎます。特に海外招聘団体。「オペラは最高の、究極の舞台芸術だ」的な刷り込みをして、見栄っ張りな方々を煽っているのも問題です。確かに贅沢なものですし、経営感覚も必要でしょう。でも、元々は貴族達のものであったオペラも、十九世紀の半ばには、市民の娯楽になっていたわけですから。このままだとオペラは、化石か高嶺の花の無形文化財になりかねません。ヨーロッパでのオペラ離れも、その辺りに原因の一端があると思います。
 我が国の文化行政の貧困さを嘆いても詮無いことかもしれません。でも、お金持ちも、そうでない人も、皆が等しく楽しい気持になれるもの、生きていく上で糧となるようなもの、オペラには特にそうあって欲しい。一舞台人として、切に願っています。
 星野哲郎先生の代表作『三百六十五歩のマーチ』をご存知ですか? 演歌とは、人生の応援歌でもあるというのが先生の考え方でした。オペラもまた、そういう力を持っていると思います。東北地方の被災地へ、二期会の皆さんが訪問されたという噂も聞きましたが、大変元気づけられたことでしょう。音楽の果たす役割は、本当に大きいんですね。
辰巳たく (たつみ・たくろう)
◎俳優
京都大学文学部卒業。クラシックのアーティスト達との交流も多く、コンサートの司会や演出も手がける。
日フィルの定期演奏会で演じたベルリオーズの『レリオ』は大好評を博した。
また、六本木男声合唱団の一員として毎年サントリーホールで唱い、ウィーンの楽友協会やモナコのオペラハウスの舞台にも立つ。
好評放映中の「辰巳たく郎のワイン番組」(BSフジ)、「辰巳たく郎の家物語~リモデル☆きらり~」(BS朝日)は自身が企画。
娘、真理恵は東京音楽大学の大学院で声楽を学んでいる。


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