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オペラを楽しむ

オペラって…
「ヘヴィメタとクラシック」 八塩圭子


 ここ数年の私のテーマは、「オペラ嫌い」を「オペラ好き」に変えるにはどうすればいいのかということだ。ターゲットとしている「オペラ嫌い」とは、何を隠そう、私の夫のことだ。
 一応紹介しておくと、夫は金子達仁といい、スポーツライターをしている。学生時代はサッカーに明け暮れ、音楽の時間の記憶はほぼなく、今、車の中で聴く曲はヘヴィメタルばかりと、クラシック音楽の対極にいる人間だ。私がオペラに誘っても、「あんなブルジョワなものは俺には合わん」と、全く付き合ってくれない。ニューヨークに旅行に行った時でさえ、メトロポリタンオペラに妻一人で行かせ、自分はホテルでヘヴィメタのCDを聴いているような徹底ぶりだ。
 そんな男を、果たしてオペラ好きに、いや、好きにならなくても、せめて劇場に一緒に行かせることができるのだろうか?
 今まで試みた策、多数だ。「サッカー場あるところ、オペラ劇場あり。土壌は同じ」などとサッカーにかこつけておびき寄せようとするも、失敗。「寝ててもいいから、とにかく座ってて」と捨て身な作戦に出ても、「イヤダ」の一点張りだ。
 結婚して5年、説得するのに疲れ、最近では声もかけずに、オペラ仲間とばかり劇場に足を運んでいるのだが、そのままでいいはずはない。なぜならば、私の老後の夢は、「世界のオペラ座&音楽祭巡り」なのだから。さすがに、その年になってから夫と別行動というわけにもいかないだろう。それまでになんとか夫を丸め込んで、オペラ好きにしなければ・・・。
 夫と同じくスポーツライターである玉木正之さんは、オペラにも造詣が深く、音楽評論家としても活躍していらっしゃるので、スポーツとオペラが両立できないわけではなかろう。
 さらに、コンサートや音楽番組の構成をされている知人は、「ヘヴィメタとクラシックって似てるのよ。だから、だんなさまも、年を取ったら、クラシックに来るかもよ」と、慰めの言葉をかけてくださる。なんでも、ヘヴィメタの「鳴き」と言われる盛り上がりはクラシックに通じる部分があるそうだ。クラシック音楽のフレーズを取り入れたメタル曲も多いので、両者の距離は遠そうで、実は近いのだという。
 そんな一縷の望みにかけ、私の説得は続く。どなたか、「私はこうして夫をオペラ好きにした」という実例、あるいは、「昔は嫌いだったけど、こうして好きになった」という体験談などお持ちでしたら、ぜひとも私にご一報ください。お待ちしています。
八塩圭子(やしお けいこ)
◎東京都生まれ。93年テレビ東京入社、報道局経済部記者を経て同局アナウンス室、03年にはフリーアナウンサーとして活動を開始。CX「めざましどようび」メインキャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」DJをはじめ、テレビ、ラジオ等で活躍。著書には「三十路の手習い」(日経BP社刊)など多数。また関西学院大学商学部にて准教授としても活動中。