二期会の、いや、日本オペラ界のスター・テノール福井敬。つねに悲壮感漂うヒーローを演じるこの福井がバナナを語る時の喜ばしい表情を見ると、どれほどオペラ歌手の現場がハードかということがわかる。
「オペラの舞台は、一本通すと軽く1kgくらいは減量しますから栄養分に富んだバナナは楽屋見舞いには最適です。何となく存在や色的にも緊張感漂う現場の雰囲気を和らげてくれる効果もありますね。つねに傍にないと、口寂しくもあります…(笑)」
福井のバナナ愛は二期会内でも有名だそう。
もう一つ、福井にとって陣中見舞いに欠かせない逸品がある。それは、ご存知「福砂屋」のキューブカステラ。
「初日の挨拶回りの時に、感謝の意を込めてこのかわいらしいキューブを持って回ると本当に皆さん喜んでくださるんです。とにかくおいしいですし、パッケージや包装の細やかな心遣いが感謝の気持ちを表してくれますね」
そんな福井に、自分自身にとっての理想の差し入れを尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「演奏会に足を運んでくださる皆さんとの交流が一番のプレゼントです。僕のコンサートやオフ会には、それこそ80代や90代のご婦人も来てくださるんですが、“普段はめったに外出しないけれど福井さんの演奏会には、精一杯おめかししてきたの”と言ってくださると、本当に元気を頂きます。皆さんの思いによって、双方にとっていい“気”が生まれるというのでしょうか。そんな中で歌えるのは、歌手として本当に幸せですね」
福井 敬(ふくい けい) テノール
国立音楽大学及び同大学院、文化庁オペラ研修所修了。芸術選奨文部大臣賞新人賞及び文部科学大臣賞、ジロー・オペラ新人賞、オペラ賞、出光音楽賞、エクソンモービル音楽賞本賞など受賞。東京二期会『ラ・ボエーム』ロドルフォの鮮烈デビュー以来、古典から現代まで手掛けたオペラは60を数え、他者の追随を許さない輝かしい演唱で常に絶賛を博す。コンサートでもソリストとしてNHK交響楽団を始め主要楽団と共演。
二期会会員