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オペラを楽しむ

「オペラの楽しみ」 室田尚子

第1回「幕が上がるまで」



 華麗なる総合芸術、オペラ。その華麗さゆえに、クラシック音楽の中でも特に「敷居が高い」と思われがちですが、音楽があって、歌があって、舞台があって、人間が演じる、という風に考えれば、ミュージカルや歌舞伎、あるいは演劇の舞台などと大きな差はない、ともいえます。それでもなぜか、オペラを特別視する人は多く、そういう人にたずねるとかえってくる答えが、「外国語なのでストーリーがわからない」「音楽が難しい」「歌が大げさで恥ずかしい」「歌手の体型がちょっと……(!)」といったもの。そこで、このコーナーでは、こうした「オペラ食わず嫌い」の皆さまに、様々な面からオペラの楽しみ方をアドヴァイスしていこうと思います。ちょっとした工夫で、オペラはぐんと身近で親しみやすくなるのです。
 さて、オペラ入門者にとって最もやっかいなのは、実はオペラの幕が上がるまで、かもしれません。公演の情報はどうやって手に入れればいいのか、予習は必要なのか、そしてどんな服装で行けばいいのか、などなど、疑問が多すぎて、つい億劫になってしまう、という方も意外に多いようです。そこで、幕が上がるまでの楽しみ方を、時系列に沿って考えてみましょう。

 

(1) 事前情報をゲットせよ
 公演情報は、クラシック音楽専門の情報誌、音楽雑誌、新聞、インターネットなどでゲットすることができます。特に雑誌などでは、その時期の「注目公演」の特集が組まれていたりするので、ぜひ読んでみて下さい(このホームページや機関誌『二期会通信』も情報満載です!)。そこには、簡単なストーリーや、今回の公演の見どころ、歌手のインタビューなどが掲載されていて、何も知らない人でも、ある程度はその雰囲気がわかるようになっています。
 また、コンサートに行って貰えるチラシも重要な情報源です。コンサートホールの入口では、チラシの束の入ったビニール袋が配られています。チラシは、主催者が工夫(とお金)を凝らして作っていて、何よりオペラの作り手の「ここに注目して欲しい」ということが伝わってくる重要なツールです。

 

(2) オペラを観る特等席とは?
 さて、事前情報も手に入れていざチケットを購入、という段階になって悩むのが、広い劇場のいったいどの席を買えばいいのか、ということ。一般に「良い席」とは「音響が良い席」と考えられていますが、ことオペラの場合は「舞台全体がよく見える」という条件も外せません。また、たとえ舞台全体が見えるといっても、大ホールの上の階の席だと小さすぎて誰が誰なのかわからない、という難点も。もちろん、オペラグラスを使えば人物の表情などはよくわかるのですが、あまりに舞台から離れた席だと、舞台芸術にとってもっとも重要な「臨場感」が伝わりにくいという欠点があるのでおすすめできません。
 総じて、なるべく正面真ん中に近く、1階なら天井が被っていないところ、2階ならなるべく前、というのが「良い席」ということになりますが、こうした席は例外なくお値段も高いし、またチケットも真っ先に売れてしまうので早めの購入が肝心です。また、人によっては「音響より顔を見たい!」というケースもあるかもしれません。確かに最前列は音響的には最悪、舞台全体も見えない、という「悪い席」ですが、こと歌手との距離感はものすごいものがあります。以前私は最前列でオペラを観る、という暴挙に出たことがあるのですが、歌手が着ている衣装の模様まで全部バッチリ見えて、それはそれで感動しました。つまり、席の善し悪しよりは、「とにかく生の舞台に接する」ことを最優先に考えれば、どんな席でもそれなりに面白く観れるのがオペラなのです。

 

(3) 予習は必要か?
 一般にオペラは「予習していくべき」といわれていますが、最近の舞台は必ず字幕がつきますので、外国語でもストーリーがまったくわからない、ということはありません。いっそ思い切って、当日に賭けてみるのも手かも。むしろ、まっさらな状態で感動した演目を、帰ってきて色々な資料を読んで復習する方が、その後の楽しみの幅が広がってくるかもしれません。

 

(4) どんな服装で、誰と行くの?
 海外の有名歌劇場の引っ越し公演などでは、女性はイブニングドレス、男性はタキシードで正装した方を見かけることもありますが、もちろん、そこまでしなくても大丈夫です。ただ、やはりオペラというのは日常とは違う空間を楽しむものなので、私としては「よそゆき」のオシャレをおすすめします。
 そしてオペラは、ひとりで行くととても寂しいもの。休憩の時、ひとりでビールを飲むのは味気ないものですし、終わったあとご飯を食べながら色々感想などを語りたくても、ひとりではそれもできません。だから、オペラは「必ず」誰かと一緒に、より具体的には恋人や配偶者など、パートナーと行くことを強く主張したいと思います。
 自分が一番素敵に見える服をチョイスして、パートナーと非日常空間を思い切り楽しむ。これもオペラの大きな楽しみのひとつなのです。