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「監督の想いを描く」『魔笛』衣裳デザイン

漫画家 加藤礼次朗




『魔笛』という壮大な宇宙を、一枚の絵で表現する…そのために登場する全ての人物を一人残さずなかに納めるというのは、無謀なアイデアでしたが、楽しい作業でもありました。
劇中にある、魔笛がパミーナ姫の父の手で霊木から作られたというセリフを元に、夜と昼(闇と光)を象徴する夜の女王とザラストロを大樹のイメージでベースに敷き、その狭間で翻弄されるタミーノ達、主要人物を螺旋状に配置しました。螺旋はDNA…人間一人一人が持っている内なる宇宙からイメージしたものです。
パパゲーノが一番目立つ場所に描かれているのは、初演の衣裳デザインの際、彼が、実相寺監督の一番拘られた人物だったからです。曰く「パパゲーノは、昔からいつも鳥のイメージ。いつもと同じ事を繰り返しても面白くない。だから、今回は鳥的な意匠をデザインから一切はずしてもらいたい」とのことでした。
実相寺監督は完璧な音楽と新しいビジュアルで、常に観客(聴衆)に新鮮な驚きを掲示し続けてゆきたいという欲求を最後まで貫き通された真のエンターテイナーでした。その志を受け継いでゆきたい…という想いを、天高く羽ばたいてゆく鳥たちに託して描きました。