TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

『魔笛』から始めよう、こどものオペラ体験
−こどもにオペラを観せてみませんか!−

文・宝槻美代子



「こども」といえるのは何歳まででしょう?


 こども……。「こども」の定義、こと音楽に関して。
 クラシック音楽を「高尚だと認識、他の音楽と区別する」ことが出来ない年齢まで。ですから一概に何歳とは言えないと思っています。


こどもは意外にオペラ好き


 いつも家の中に雑多な音楽がころがっているような環境だったら、そしてクラシックなどもそこらにあるなら、当然こどもは一番楽しいと思えるものをえらびますから、アニメのテーマソングや幼稚園ではやっている曲、そしてその次くらいにオペラを選択する……本当に意外なのですが。こどもはオペラが好きなのです。こどもに音楽を、特にクラシックをということならば、まずはじめにオペラがいいのだと思っています。
 私のこども達がまだ小さかったころ、「フィガロの結婚」のビデオにはまっていた事があり、あのような複雑な人間関係はまったく理解できなかったでしょうが、「つかみ」ばっちりな旋律満載、どたばたあり、小気味良いテンポ……モーツァルトが意図した面白さをそのまま受け取っているような感じでした。特に私の家のこどもだけの現象ではなく、近所のこども数人が集まっている場でこのビデオを流しても、こども達はかなり長い間集中して見入っていたものです。 
 当然だと思うのです。オペラって、人が出てきて信じられないような大声で歌う。それだけでもびっくりなのに、一人で歌う、二人で歌う、大勢で歌う、その上それが「お話」になっている……そう、こどもはとってもお話好きです。すぐに入り込めるうえに現実と区別がつかなくなるという「特技」を持っている。オペラ「ヘンゼルとグレーテル」の魔女をやっていて何度「本気」になったこどもに倒されそうになったことか……。オペラはこどもにとって、とても面白いジャンルなのです。


ウマいものを知ってるこども達


 こどもになにかを提供する時、おとなは大人の視線でそれを考えてしまうので、つい「こどもだまし的な」「幼稚な」ものを与えがちですが、かれらの視点は少し違うところにあり、それこそ皮膚感覚、頭から下で判断しているようなのです。その感覚をもった提供者だけがこどもに「受ける」物を作れる……。まさにモーツァルトは適任なのではないでしょうか?
 マミーシンガーズはコンパクトオペラシリーズというものを作って、幼稚園、小学校等に出向いております。私などは「わかりやすく」「たいくつさせない」ことに専心してしまい、つい音楽としての「いいところ」をカットしようとして、よくメンバーともめましたが、やってみると意外。音楽的に「ウマいところ」はこどもにもウマいらしく、聞き入ってくれるではないですか。ウマいものはわかるんですね。家のご飯でも「主義」で作ったもの(野菜をたべるべき、繊維質をとるべき)は受けませんが、本当においしいものは禁止しても食べますから。 「魔笛」……怪獣、鳥人間、女王、正義の王子、立役者は揃ったな。一人で歌う、何人かで歌う、大勢で歌う、なんて面白いのでしょう?「ウマいところ」だらけ。
 「魔笛」1部に関してモーツァルトもわくわくして書いていたと思う。それに「感応」出来る年までを「こども」と定義しても良い。「わかりやすく」することは賛成ですが、特に日本語にするとか解説を入れるとかすることもないのです。そんなところで面白がっているわけではないところが「こども」というものなのだと思います。


こどもにはぜひクラシック音楽を聞かせたい


 クラシック音楽がすべての音楽に勝るなどとは微塵も思っていませんが、内容が深くそして濃く、人間の源泉にコミットできるコンテンツを持っていることは確かで、人の心の一番深いところに触れられる音楽ではあると思います。生きていく上で、抜き差しならない出来事や悲しいこと、辛い事も間々あるでしょう。そんなとき「帰ってこられる場所」を少なからず提供できるジャンルだと思っています。
 で、それを無造作に受け入れられる時期はとても早い時期……そう、クラシックをほかの音楽と区別できないくらい小さな時期。頭ではなく皮膚で聞ける時期。この時期に聞いてしまうと、一生聞くことになるのではないでしょうか?
 子供の頃食べた母親の味噌汁の味は生涯忘れられない、という感覚に近いかな。


  まとめましょうか?
 クラシックは早いうちから。初めはオペラ、特にモーツァルトのオペラから。「魔笛」など最適。
 オペラはムズカシイ、こどもを連れて行ってもわからない……まずはそのような「おとな」の先入観を捨ててオペラの会場に行ってみてはいかがでしょう? そこには目くるめくファンタスティック・ワンダーランドがありますよ!


宝槻美代子(ほうつき・みよこ)
法政大学社会学部を経て、洗足学園音楽大学音楽教育学科を卒業。第44期二期会オペラスタジオ修了。二期会マミーシンガーズ代表。二期会会員。


二期会マミーシンガーズ
5年前に二期会会員の有志で立ち上げたグループ。「平土間からオペラを」と、高い舞台から一方的に歌うのではなく、お客様(主にこどもたち)の目線に下りて歌うことを旨としている。公演多数。

 

<<2007年7月公演「魔笛」を楽しむTOPへ戻る