TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

『仮面舞踏会』を楽しむ
キャストインタビュー


誠実な忠臣から復讐の鬼に転じるレナート、ドラマを明から暗に転換させるウルリカ。
ヴェルディの傑作『仮面舞踏会』の中で、声の上でも演技の上でも味わい深い2役。
挑戦するのは、イタリアで学ぶ若き二人の逸材だ。


[レナート]青山貴
〜ひたむきな求道者バリトン〜

秋から日伊を行き来する生活を送っている青山さん、インタビューの翌日、慌しくイタリアに戻っていった。
 「バスティアニーニが好きで、品があってカッコいいな、と思います。現役ならレオ・ヌッチですかね。大歌手は息がずっとつながって、レガートに歌える。低い音と高い音の出し方に差がない。そういうことを自分もぜひ身につけたいと思っています」。
 2004年秋からも1年間、ボローニャで学んだ。買い物ひとつとってみても、日本ではマニュアル的な応対をする店員が多いのに対し、
 「イタリアの店員とは心と心の対話が感じられて、いいなと思います。こういう経験が歌にも活きますね」。
 ひたむきにそう語る青山さんだが、声楽を、いや音楽そのものを始めたのは意外に遅く、しかも偶然だった。
 「都立高校に入学したとき、たまたま合唱部に勧誘され、断れずに入ったんですよ。すると2年上に(テノールの)望月哲也先輩がいて、憧れてしまって。合唱部では年に3回くらい、部員がひとりで歌う会があって、わけがわからないまま音楽室にある楽譜を見ながら『プロヴァンスの海と陸』などのアリアを歌い、歌うのが楽しいことに気づきましてね。2年生になると音大に行きたくなり、望月先輩の後を追うように東京芸大に入りました。最初はバスだったのですが、大学3年くらいでバリトンになって、高い音を出すのに挑戦するのがまた楽しいなと」。
 新国立劇場オペラ研修所に在籍中、研修でボローニャに短期間滞在したのが転機だった。
 「セルジョ・ベルトッキというテノールの先生に、発声のことを教えていただき、自分の声についてじっくり考えることができました。支えとか息の使い方の勉強が足りないな、とか」。
 そのときの体験に導かれるように、今もボローニャで学んでいる青山さんだが、これまでのキャリアの中でもハイライトといえるのが、9月の『仮面舞踏会』のレナート役だろう。
「実は、ヴェルディは学生時代に『レクイエム』を歌ったのが唯一の経験なんです。レナートは今まで歌った中ではダントツに重い役で、太く暗い声が要求され、力強さも必要です。そもそもバリトンの役はオペラの登場人物の中でもいちばん年輪を感じる、引き締める役柄ですが、それだけに無理をすると声を潰してしまいます」。
 時間があると、カラオケでミスター・チルドレンや久保田利伸などを歌うという、お茶目な31歳に無理は禁物だが、そこは心得ている。
 「ヴェルディ・バリトンというと、とかく深い声を追い求めがちですが、自分の声で表現することを大事にしよう、という先生の教えを守らないと。感情に任せて歌ったりしないように、しっかりコントロールしたい。自分は高い音だと力が入ったり、ぶつけてしまったりするところがあるので、公演までに息をしっかりつなげるように勉強して臨みたいですね」。
 そう言って、誠実な人柄がにじみ出るまっすぐな瞳を輝かせた。


[ウルリカ]清水華澄
〜瑞々しいのに特大スケール〜

月に『タンホイザー』と『ローエングリン』というワーグナーの2演目をまとめて聴いて、「ゆくゆく歌ってみたいですね。大きな目標です。スケール感に加えて、いくら歌っても歌い足りないオーケストラの厚み。あの流れの中に入りたい」。
 声のスケールによほど自信がなければ、こんなことは思わないだろう。そもそも歌を始めたきっかけも、
 「中学3年生のとき、新しく赴任してきた先生が、合唱団の強化に乗り出し、私も誘われたんです。それまでソフトボールをやっていましたが、ワーワーやるのが好きだったし、大きい声も出せるので、合唱が楽しくなりましてね」。
 楽譜が読めなかった少女は一転、音楽の道を志し、国立音大に入る。
 「私がワイワイやりすぎるものだから、先生からよく“リートを歌っていなさい”と言われて。大学院もリート科に進んだのですが、リートには不必要な言葉はないし、短い曲の中でドラマを作らなければいけない。リートをしっかり勉強したことが、オペラで表現する上ですごく活きています」。
 オペラを本格的に学んだのは、新国立劇場オペラ研修所に入ってから。
 「海外からきた先生方から“舞台の上で楽しむんだ”と言われ、何をやっても怒られず、楽しくて。私の元々のキャラクターにぴったりでした」。
 が、発声についてはずっと悩みどおしだったという。
 「高音を出すのが辛いし、声帯が疲れてしまって毎回歌えない。声帯の使い方をわかっていなかったんです」。
 それが、3年次に2カ月間、イタリアに研修に行って、
 「何かが開けたんですね。向こうの先生に“ソプラノ・ドランマティコの素質もある”と言われて、声種を変えていいのかどうか悩みました。が、“自分の人生なんだから自分でページをめくりなさい”とも言われ、その途端、声がワーッと出るようになったんです。驚きましたね。今は腹を決め、メゾとソプラノの両方を追求しています」。
 どんな役に取り組んでも、のめり込んでしまうという清水さん、
 「バーデン市で『こうもり』のオルロフスキーを歌ったとき、演出家が私に合わせて、女を前面に出していいと言ってくれたんです。うれしくて、やりすぎるくらい演技しました」。
 『仮面舞踏会』のウルリカ役に対しても、もうイメージはできている。
 「夜行性の動物の目というか、闇の中では黒目が大きくなりますね。それが表現できたらいいと思うんです。占い師は人も炎も、それ自体は見ていません。そこから浮かび上がるもの、先にあるものを見ています。そう意識すると、声量もついてくると思うので。大きく、ゆったりとした動きができるといいな、と思います。彼女は悲劇が始まるきっかけを作る大事な役なだけに、ワクワクしますね」。
 若い歌手たちのチームについては、
 「一致団結、パワー全開ですね。東京文化会館が狭いな、と思ってもらえるくらいの声と演技が打ち出せたらいいな、と思っています」。