TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

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オペラを楽しむ

『天国と地獄』を楽しむ
キャストインタビュー

文・生賀啓子 写真・広瀬克和


自惚れ・裏切り・騙しあい
掟破りの男と女が繰り広げる稀代のお笑い劇場『天国と地獄』
艶めかしきヒロイン・ユーリディスを二人の歌姫はどう魅せる?


[ユーリディス]澤畑恵美
キュートで魅惑的に

ラシック音楽をテーマにしたラジオ番組のパーソナリティを長年務め、その楽しいトークと朗らかな笑い声で全国区の人気となった澤畑恵美さん。凛とした伯爵夫人からチャーミングな魅力に溢れる娘役まで、透明感のある歌声と大人ならではの気品と華やかさを兼ね備えた舞台姿は多くのオペラファンを魅了する。
 プリマ・ドンナとして順風満帆のキャリアを歩んでいる澤畑さんに歌手を目指したきっかけを伺えば、意外にも「ピアニストに憧れていたんですよ」との返事が。
 「音楽大学に進みたかったのですが、師事していた先生からピアノ科は無理と言われてしまい……。でもやっぱり音大に行きたい! そこで、音大の教育音楽科を目指し、ピアノと並行して声楽のレッスンを始めました。1年後には声楽科を受けられるレベルかもと言われ、歌うことは楽しかったので声楽科受験に進路を変更。将来は、好きなオペラのアリアをコンサートで歌っていければ、と単純に考えて、大学院はオペラ科に進みました」
 オペラ科ーそこは歌とともに、歌劇の舞台で必要な演技を学ぶ場だった。
 「演じることがとにかく苦手で。初めのころは足一歩、手一本前へ出すことさえ出来なかったくらいでした。転機となったのは、『コジ・ファン・トゥッテ』のデスピーナの役。ある舞台で演じたとき、自分が身体を動かして何かを表現すると、会場のあちこちから笑いが起きるのでびっくりしたんです。客席から舞台へ反応がダイレクトに返ってくるという初めての体験でした。歌手と客席の間におきるコミュニケーション…これは面白いぞ、と。それからですね、オペラの舞台が本当に楽しくなっていったのは」
 11月公演の『天国と地獄』では久々のオペレッタに主演する。軽妙なタッチのストーリーと歌が織り成すオペレッタ。オペラとはどう演じ分けるのだろうか?
 「オペラは音楽がなによりも優先。音楽が道標となり、その流れに乗って歌い演じていけばよいのですが、オペレッタは違います。音楽と芝居(演技)のバランスが互角になるようにつくられているので、芝居は演者自らが、つくり出していかなければいけないものです。舞台上の相手の芝居に反応し、舞台と客席をともに盛り上げるような、音楽的な会話をしていくことはエネルギーをとても使います。私にとっては毎秒のように緊張の連続です」
 初めて演じるオルフェウスの妻・ユーリディス。夫に隠れ、愛人との逢瀬を楽しむ打算的な女性だ。
 「私はこれまで娘役などが多かったので、浮気な女性の役自体が初めてなんです! それに、ユーリディスの性格や奔放な行動ぶりは、私自身の性格や普段の生活からもかなり遠い(笑)。自分とは正反対の役柄だからこそ、役を演じることで今までの私の中にない何かを見つけ、引き出せるよう、楽しみながら役作りをしていきたいと思っています」


[ユーリディス]腰越満美
〜神々しくてゴージャス〜

ペラからミュージカル、リサイタルではリートからジャズ・ポピュラーの名曲まで。幅広いジャンルで活躍する美貌のプリマ・ドンナ、腰越満美さん。華のある演技にもますます磨きがかかり、この秋オペレッタ『天国と地獄』で主演をつとめる。
 「『こうもり』『メリー・ウィドー』、と今年に入ってから、なぜかオペレッタづいているんです。そんな流れの中での『天国と地獄』。初めて挑戦する演目ですが、パリのエスプリが感じられる、粋でセクシーなユーリディスを演じてみたいですね」
 子どもの頃からクラシックのピアノを習い、ポピュラー曲を弾き語りしていたこともあった、腰越さん。小学生時代の将来の夢は〝クラブの弾き語り歌手〟だったとか。
 「恩師に〝弾き語りがしたいなら、ジャズピアノを習ってみたら〟とすすめられたのです。その後、〝歌の勉強もしてみては?〟とアドバイスされ、専門学校で声楽を専攻したのが本格的な歌との出会いに。当時は、〝マリア・カラスって誰?〟と言ってバカにされたくらい、歌のことは何も知らなかったんですよ。それでも歌うことは好きで、6年間学校で声楽を勉強。学外では学校の仲間とともに『サウンド・オブ・ミュージック』などミュージカル公演や『カルメン』の合唱で実践的に舞台に立つ機会も多く経験し、舞台で歌うのは面白いなあと実感できるようになっていったのです」
 学生時代に培った舞台での演技経験は、卒業後入所した二期会オペラ研修所の授業でも大いに役立ったという。やがて〝演技のできるソプラノ歌手〟として頭角を現しはじめた腰越さん。東京二期会オペラ公演では『蝶々夫人』のタイトルロール、『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラ、『フィガロの結婚』の伯爵夫人などでオペラ歌手としての成功を掴む。
 「私自身は強い女性の役が好きなんです。特に、強さ・弱さの相反する二面性のある女性に共感しますね。そういった意味では、今回演じるユーリディスも魅力的な女性の一人かも。神々しさや退廃感などを盛り込みつつ、ドタバタ感が引き立つよう、演者はあくまでもクールに。〝オペレッタ=お笑い〟を感じとっていただければうれしいです」
 オペラ、コンサートと第一線で活躍する今、あらためて〝これからの夢〟を伺った。
 「それはやっぱり、クラブ歌手……というのは軽い冗談(笑)。でも、クラブでジャズを歌うのが憧れだったこともあって、数年前くらいから、自分のリサイタルでは〝アイ・ガット・リズム〟などガーシュウィンの曲、ミュージカルナンバーなどもプログラムに組み入れてみたりしているんです。クラシックとは違い、ジャズやポピュラーを歌うときは地声を使う比率が高くなるので、1公演の中でクラシック、ジャズ、ミュージカル、とジャンルが多岐にわたった選曲は正直ノドも疲れがちです。けれど、プログラムに親しみやすい曲があるとお客様も喜んでくださいますし、自分自身歌っていてとても楽しいです。こういうコンサートは、私がおばあさんになっても続けていきたいですね」