人間には2種類しかいない。オペラが解る人と、解らない人……。そう言い切った人がいる。オペラ好きの偏った意見にも思えるが、それも一つの真理。
オペラは、五感で哲学を読み解くとてつもなく贅沢な時間。そこに魂ごと浸れば、人間はいやでも心を磨かれ、鍛えられ、浄化もされる。何度となく観て覚えてしまった歌詞も、アーティストたちが全身全霊で魂に訴えかけると、何度でも繰り返し感動でき、新鮮な気づきに人間を知り、人生を精査させられる。そんな重厚な時間は他にないはずだ。
いや、オペラが効く人には、同じ演目も30回観たら30回分の、それどころか回を重ねるほどに増幅していく〝命の美容効果〟がもたらされると考えていいだろう。
ちなみに『プリティ・ウーマン』はハッピーエンドに終わるが、男が女を迎えに行くラストには『椿姫』の一節から「私を愛してアルフレード」が流れる。〝現代版の椿姫〟と見ることもできるが、同じオペラを観て同じ所で涙する、そういう人と一緒に生きたいという人生論がそこに密かに描かれたと言ってもいい。オペラに心震わせる人と、震わさない人、世の中にはこの2種類しかいないのだから。
齋藤薫(さいとう かおる)
女性誌において多数の連載エッセイを持ち、読者層から絶大な支持を誇るカリスマ美容ジャーナリスト、エッセイスト。
『されど男は愛おしい』『あなたには“躾”があるか?』『ちょっと過激な幸福論』(講談社)、『一生美人学』(朝日新聞出版)、など著書多数。実は、大のオペラ・クラシック音楽ファンでもある。