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オペラを楽しむ

齋藤薫 美女になるオペラ
Vol.1

オペラという“命の美容”が、効く人と、効かない人

人間には2種類しかいない。オペラが解る人と、解らない人……。そう言い切った人がいる。オペラ好きの偏った意見にも思えるが、それも一つの真理。

覚えているだろうか? 映画『プリティ・ウーマン』に、オペラ鑑賞の場面があったこと。演し物は『椿姫』。彼らの境遇とダブる設定ではあるが、感動に目を潤ませたヒロインに、男はこう言葉を投げかける。

「初めてオペラを観て、オペラを好きになる人もいれば、嫌いになる人もいる。好きならオペラは一生の友となるし、嫌いならオペラは君の魂にはなり得ない」

オペラが魂になる―。素晴らしい表現である。実際オペラが効く人と効かない人がいて、これは〝恋愛をするか、しないか〟ほどの違いを、人生にもたらすはずである。

本来がオペラは命を磨き清める妙薬。まさしくその薬が効く人と効かない人が決定的にいるという事実を、男のセリフの中にドキドキしながら再確認したものだった。

『プリティ・ウーマン』でシンデレラを演じたジュリア・ロバーツ
Photo by Denis Makarenko

オペラは、五感で哲学を読み解くとてつもなく贅沢な時間。そこに魂ごと浸れば、人間はいやでも心を磨かれ、鍛えられ、浄化もされる。何度となく観て覚えてしまった歌詞も、アーティストたちが全身全霊で魂に訴えかけると、何度でも繰り返し感動でき、新鮮な気づきに人間を知り、人生を精査させられる。そんな重厚な時間は他にないはずだ。

いや、オペラが効く人には、同じ演目も30回観たら30回分の、それどころか回を重ねるほどに増幅していく〝命の美容効果〟がもたらされると考えていいだろう。

ちなみに『プリティ・ウーマン』はハッピーエンドに終わるが、男が女を迎えに行くラストには『椿姫』の一節から「私を愛してアルフレード」が流れる。〝現代版の椿姫〟と見ることもできるが、同じオペラを観て同じ所で涙する、そういう人と一緒に生きたいという人生論がそこに密かに描かれたと言ってもいい。オペラに心震わせる人と、震わさない人、世の中にはこの2種類しかいないのだから。

齋藤薫(さいとう かおる)

女性誌において多数の連載エッセイを持ち、読者層から絶大な支持を誇るカリスマ美容ジャーナリスト、エッセイスト。
『されど男は愛おしい』『あなたには“躾”があるか?』『ちょっと過激な幸福論』(講談社)、『一生美人学』(朝日新聞出版)、など著書多数。実は、大のオペラ・クラシック音楽ファンでもある。